今更ですが、カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

《あらすじなど、作品の説明はくだくだしくなるのでしません。ですから、既に読まれた人だけに向けた文になっていまいます》

叙情的で美しい少女、少年時代の描写と、残酷な真実が明かされた後、その少女、少年時代の一番鍵となっていて、希望でもあったエピソードが情け容赦なく、あっけなく切り捨てられる真相。

前提の設定が非現実的なので、どうしても無理があったりして、少し馬鹿馬鹿しく思えてくることもありますが、読後、残酷な運命を生きた彼女、彼らたちと、現実世界を生きている私たちとの間に、どれほどの違いがあるのだろう、と考えると、作者の意図が少しわかったような気がします。

読んでいない方でも、作者にとっては道具立てに過ぎない前半部でも(真相の衝撃を高めるために美しく描いているという意味です)カズオ・イシグロくらいになると、それだけでも読むに値するという、文章の力を実感できる作品なので、読んで損するということはないでしょう。
ついでながら、原文も割合にわかりやすいので、根気のある方でしたら、英語版をお勧めしたいです。